大規模な豪雨や大雪は、気象庁による前線の動向や台風進路予想などをもとに、数日前から警報レベルが発表されます。これに対し地震は、現状ではいつ起こるかを事前に予測することができないため、発災後の安全確保と事業継続に向けた準備が求められます。気象庁は大雨・洪水・暴風・大雪に関わる警報・注意報をテレビやウェブでリアルタイムに発信するとともに、特別警報制度の運用強化により避難判断を促す仕組みを整えています。
一方、地震や噴火、土砂災害など予測困難な災害については、発生を契機とした即時の初動マニュアルや避難行動訓練が重要です。災害種別ごとに「いつ・何を」「誰が・どう判断するか」をあらかじめ決めておくことで、予測可能な災害と予測不可能な災害いずれにも柔軟に対応できる体制作りが可能になります。
クリニックにおけるBCP(事業継続計画)とは、大規模災害や事故などの被害を受けても、重要な診療業務が途切れないように準備・対策を講じる仕組みです。厚生労働省では災害拠点病院向けのBCP手引きに加え、診療所など一般医療機関向けにも「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き」を公表しており、令和6年度版では災害発生後の診療継続方法や患者搬送計画、ICT活用による遠隔診療の活用など最新のノウハウをまとめています。
これらの手引きでは、リスク評価・影響度分析、重要業務の優先順位付け、代替施設・代替業者の確保、訓練・演習の実施、定期的な見直しというPDCAサイクルを重視しており、クリニック経営におけるBCPは患者の安全だけでなく経営基盤の安定化にも直結します。BCPは策定するだけでなく、スタッフ全員に周知し定期的に訓練を行うことで、初動対応のスピードと正確性を高め、災害発生時の混乱を抑制します。
クリニック運営者は気象庁の公式ウェブサイトや防災アプリ、自治体が配信するメール配信サービスなど複数の情報入手ルートを確保しておく必要があります。特に梅雨期や台風シーズンには、台風進路予想図や梅雨前線の活発化に伴う大雨警報・特別警報の発表タイミングを把握することで、診療体制の見直し判断を前倒しできます。自治体が発する避難勧告・避難指示など地域情報も併せて確認し、クリニック周辺の浸水想定区域や土砂災害警戒区域の最新ハザードマップに基づき、「いつ・どのレベルの警報で休診とするか」をあらかじめルール化しておくと、危機管理上の属人化防止が可能です。
大雨警報や洪水警報が発令された段階で、翌日の診療体制を前日夜に確定し、ホームページやクリニック窓口に「臨時休診のお知らせ」として掲載することが基本です。診療予約システムがオンライン対応可能な場合は、自動的に受付を停止する設定を行い、電話予約の場合は留守番電話メッセージで休診情報を流しましょう。
当日朝の気象状況変化が想定される場合には、午前診療終了時点でスタッフミーティングを開き、午後診療の可否を即時に判断・通知します。患者の不安解消のため、休診理由や再診予約の方法、緊急連絡先などを具体的に記載することで、窓口混乱を抑えつつ患者満足度を維持できます。また、SNS公式アカウントを運用している場合は、院長メッセージや短い動画で状況説明を行うと、視覚的にわかりやすく伝わります。
台風や大雨による鉄道運休や道路規制が発生すると、スタッフの通勤や帰宅に大きな影響が出ます。前日夜からの気象情報を共有し、運行状況に応じて始業・終業時刻の繰り上げ繰り下げを検討しましょう。代替手段として、タクシー利用補助や自家用車通勤許可、場合によっては宿直体制を整備し、無理な帰宅を避けられるよう配慮します。スタッフの安否確認にはLINEのグループチャットや専用アプリを活用し、「既読」「未読」ですれ違いが起きないようグループリーダーを置いて一元的に取りまとめるとスムーズです。
屋根や外壁のひび割れ、排水溝の詰まりは豪雨前に点検しておくことが重要です。外部の雨樋や排水管に落ち葉やゴミが詰まっていると、軒先からの漏水や側溝からの逆流を招きますので、専門業者による年1回以上の清掃と、梅雨入り前の自主点検を実施しましょう。
クリニックが入居する建物の耐震診断結果を所有管理者に確認し、必要に応じて耐震補強工事を実施することが望ましいです。院内では、医療用棚や薬品キャビネットを耐震用の転倒防止器具で固定し、診察台や検査機器が揺れで移動しないよう床にアンカー固定を施しましょう。天井照明やエアコンの室内機も点検し、不具合があれば部品交換や再固定を行います。さらに、緊急地震速報を受信できるアプリや端末を導入し、揺れを感じる前に業務を一時停止して身の安全を確保する体制を整えましょう。
クリニック内の平面図をもとに、患者・スタッフ双方が迅速に避難できる経路を複数設計します。待合室や診察室ごとに最寄りの非常口を示す避難誘導標識を設置し、経路上に障害となる物品がないよう常時整理整頓を徹底しておくのがおすすめです。
発災時には車いす利用者や高齢患者にはスタッフが補助しながら避難する手順を予め決めておきます。避難場所は近隣の耐震性の高い公共施設や空き地を候補とし、自治体発行のハザードマップと照らし合わせながらリスクの低い場所を優先することで、安全性を高めます。
クリニックレベルの防災マニュアルは、災害発生時の具体的な行動フロー、役割分担、連絡手段、備蓄管理などを一冊にまとめたものが理想です。台帳形式で備蓄品の棚番や使用期限がひと目でわかるようにし、マニュアル末尾には「緊急連絡網」「近隣応援機関連絡先」「OFFSITEバックアップセンター情報」などを掲載します。
内容は定期的に見直し、新しい法令改正やガイドラインに対応させましょう。各種マニュアルはスタッフ全員に配布し、院内イントラネットやクラウドストレージ上でも閲覧できるようにして、出先からでも参照可能な環境を整備します。
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